医師ブログ

2022.04.20更新

当院は、2月から花粉症の患者さんが増え始め、それに伴いこの時期から咳が止まらなくなった方がこの3~4月ごろに多くご来院頂きます。

この時期から出る咳は、やはり花粉症と関連をしている咳の割合が非常に高くなります。

そのような咳の原因としては、のどの粘膜や気管にアレルギー反応が起こる喉頭アレルギーアトピー咳嗽(ちなみに「気管」は、のどから、左右に気管支として分かれるところまでを指します)、アレルギー性鼻炎副鼻腔炎、それによる後鼻漏などなど、様々な原因が考えられています。

しかし、やはり私の印象では、この時期の咳は喘息が原因であることが一番多いように感じます。

以前のブログでお伝えしたように、花粉症などのアレルギー性鼻炎と喘息には、密接な関係があります。

鼻と気管支はよく見ると1本の管としてつながっており、鼻のアレルギーがあるときに、気管支でも同様にアレルギー反応が起こることはよくあることです。

また、この時期に長引く咳で来院される方は、いままで他の病院で治療を受けたものの改善しなかったために来院される方が多く、当院で初めて喘息と診断される方の割合が非常に大きな気がします。

当然そのように診断された方は、ステロイドの吸入薬がよく効くため、次に来院されたときは症状が良くなっている方がほとんどです(よくならなかった場合は、診断が間違ってしまったか、診断はあっていたものの他の要因が重なっていたというケースで、この場合は更なる検査や治療の追加を必要とすることが多いです)。

こちらにもお書きした通り、喘息の場合は、その治療をある程度長く続けていかなければなりません。が、症状が良くなったあと、多くの方が私の目の前から消えてしまいます。

そしてしばらく経ち、症状がぶり返した後に再度お目にかかれることが多いのです(もちろん一度止めてしまって悪化してしまった方、私はそんなことで怒ったりなぞしませんので、気兼ねなくご相談ください!)。

という訳で、このような方に喘息の治療を続けてもらうことの重要性をよりご理解いただくために、いままで落書きしかしたことのなかったiPadで、初めて絵をかいてみました(クリニックのサイネージでもお出ししていますので、ご興味のある方は是非どうぞ!)。

さて、喘息では、その「体質」により、気管支に慢性的な炎症がおきています。

そこで今回は気管支を草原、炎症を火で表現してみます。

 

まず草原である気管支では、慢性的に「種火」がくすぶっています。

喘息1

これは「体質」ですので、なかなか改善することは出来ません。

しかしこの状態では大火事(=強い炎症)は起こっていないので、強い症状は感じません。
が、火が少し大きくなったり、また小さくなったりすることで、時に咳などの症状が出てきたり、また治まったりすることもあります。

これが、日照りや強い風が吹くなど、「ある出来事」をきっかけとして急に燃え広がることがあります。
この状態はいわゆる「発作」の状態です。
喘息でのこの「ある出来事」とは、風邪などの感染症、気候(台風や季節の変わり目など)、アレルギー、温度差、ストレスなど、さまざまです(そしてこれを「トリガー(=引き金)」と呼びます)。

喘息2

この状態になると消火活動が必要になりますので、消防士がやってきて水をかけます。

これが喘息でいう「吸入ステロイド薬」になります。
吸入ステロイド薬は、炎症である炎に水をかけ、消火、つまり炎症を抑える作用をします。

喘息3

水をかけ続けたことで、ようやく火の勢いは収まりました。

もちろんあたりは水浸しです。

喘息4

この状態で、水をかけることを止めてしまった場合でも、火はすぐには広がらないことも少なくありません。
落ち着いたと思って吸入ステロイドを一度止めてみても、すぐには症状が悪化しないことも珍しくはないのです。

しかし喘息では、種火は常に残っている状態です(先ほども述べたようにこれは「体質」なので、なかなか根本的に種火を取り去るのは難しい問題です)。

ではこの状態でこのまま放置するとどうでしょう・・・

喘息5

徐々に水が乾いてきました。だんだんと再度燃え広がってしまう条件がそろってきます。

そして・・・

喘息6

あーあ、また「トリガー」をきっかけに、乾いた草原に火が燃え広がってしまいました。

大きく燃え広がると、なかなか消火にも時間がかかる状態となります。
症状が出てしまってからでは遅いのです。

ではどうしたらいいのでしょう??

喘息7

カンのいい方ならお気づきかと思います。

種火にずっと水をかけ続ければいいのです。

喘息
そうすれば、火を直接抑えるだけでなく、周りへの延焼を防ぎ、大きな火事になることを防ぐこともできるわけです。


さて、ここで振り返ってみましょう。

4番目の絵のように、びしょ濡れの原っぱではすぐに火が燃え広がらないように、吸入をやめても、すぐには悪くならないことは珍しくありません。
これは一見いいことにも思えますが、実はこの時に、患者さんは喘息が「治った」と勘違いをしてしまいがちになるのです。

ところが実際は常に消えない種火があるので、「治って」はいません。
「落ち着いて」いるだけです。

患者さんはこのことに気づけないと、症状が悪化したら治療を行い、良くなったらやめてしまうという無限ループに陥ってしまうことになります。

さらに悪いことに、何度も症状の悪化(つまり延焼)を繰り返していると、草原は黒こげとなり、焼け野原になってしまい、元の草原に戻らなくなってしまいます。

気道でも同じことが起きえます。気道も炎症を繰り返すと元に戻らなくなり、症状が治りにくくなってしまいます。

焼け野原にしないためにも、種火が常にある草原には、常に消火用水をかけ続けたほうがいいというわけです。

しかし、吸入ステロイド薬もいいことばかりではありません。

もちろん非常に治療には有効な薬なのですが、不必要に使用すると、口の中が荒れたり、声が枯れたりすることが増えます(ステロイドと聞くと、もっとひどい副作用を想像される方も多いですが、吸入ステロイド薬においては、全身に薬が回るわけではないのでこの点はあまり心配はいりません。その理由はまたいずれ書いてみます)。
もちろん続けることでお金も手間もかかります。

そこで我々喘息治療医は、できるだけ少ない薬で、種火を広がらせないギリギリのラインを常に狙って治療します。


喘息の方には、それぞれ固有の「トリガー」が起きやすい状況があります(風邪をひきやすい冬、花粉の影響を受けやすい春や夏、ハウスダストや台風の影響を受けやすい秋、それに環境や気候、仕事で忙しくなりやすい時期などなど・・・)。

これらを見越して、かけるべき水の量を事前に予測して調節できると、非常に炎がコントロールしやすくなります。

われわれ喘息治療医はこの調節を、毎回患者さんにお会いした時に、アレルギーの有無や環境変化、前年までの同じ時期の経過などを考え、一人ひとり予想を立てながら、かけるべき水の量を調節していっているのです。

ですので、治療期間が2ヵ月、3ヵ月と空いてくると、長期の予測となりその一気に精度が落ちるため、途端にコントロールが悪化するケースが増えてしまうのです。

やはり喘息は状態が安定していてもしっかり定期的に診察をし、種火が拡がる兆候がないか、注意深く経過を見ていかなきゃいけないと、私は思っています。


そして最後に、「喘息治療のやめ時」もこのモデルで考えてみましょう。

この種火は、年齢の経過や長い時間をかけて徐々に弱くなる場合もあります。
またもともと種火の勢いが弱く、めったなことでは燃え広がらないこともあります。

その場合、消火活動をやめても(=吸入薬をやめても)、めったには延焼(=炎症)を起こさないケースも確かにあり得る話です。

すると消火活動を続けることと、やめることのどっちがデメリットが大きいかで、治療の止め時を決めていくことになります。

ただ未来のことは誰にもわかりません。

どれくらいの種火になったら絶対燃え上がらなくなるか、そんなこともやってみないとわからないのです(そもそもその種火の大きさを客観的に知ること自体、かなり喘息治療に精通していないと見当がつけられません)。


一方、年を経るに従い、種火が強くなるケースもあります。

子供の時に喘息があった方は、大人になり完全に治るケースは多くあります。が、一旦落ち着いた後に大人になってからまた種火が大きくなることも珍しくありません。
また前の年まで小さな種火でその存在に気づかなかった程度のものが、今年になり急に大きくなったということもあり得ます。

ですので、治療を止めていいかどうか、というのは、これら不確実な未来を予想しながら考えなければならないことなのです。
これは我々でも常に悩む、非常に難しい作業なのです。


という訳で今回も長くなりましたが、まとめると、

「勝手に治療はやめないでね♡」

ということでした。

皆さんの心にこの絵が伝われば幸いです!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信