医師ブログ

2020.10.07更新

10月からインフルエンザの予防接種を開始しております。
今年のインフルエンザ予防接種はいつもの年とは運用が変わっております。
昨年と大きく変わっていることでいろいろとご不便をおかけしているとは思いますが、なるべく院内での密を回避し、安心してご受診いただけるようにとの策です。どうかご理解いただきますようよろしくお願い致します。

さて今回は吸入薬の落とし穴シリーズ第二弾、タービュヘイラー編をお送りします。

タービュヘイラーは、主に喘息の治療薬であるシムビコート、パルミコート、COPDに対するオーキシスに使われている器具です(シムビコートの後発品であるブデホルという薬剤も、タービュヘイラーに近い器具ですが、厳密には異なるもののようです)。
ここではおそらく一番使っている方が多いであろうシムビコートに焦点を絞ってお話ししてみます。

シムビコート

まずタービュヘイラーの使い方です。

この器具もエリプタと同様、パウダーを吸うタイプの薬剤です。
下の丸い円盤を一度半回転させ、それを戻すことで(クルッカチッ)1回分の薬が充填されます。充填された薬剤を勢いよく吸い込むことで薬剤が肺へ届きます。

この吸い方のコツ、落とし穴はエリプタと共通しています。すなわち吸入する力が弱かったり、吸入時間が短いと、しっかりと肺に薬剤が届きません(シムビコートはパウダーの粒が比較的小さく、一度吸い込むと肺の末梢まで行き渡りやすいといわれているので、すべての方の息止めは必須ではないようです)。

次に円盤の回し方です。
円盤の回し方
この薬剤は円盤を回すと上のタンクから薬剤が1回分落ちてくる仕組みなのですが、しばしば図のように傾けて回してしまうことが少なくありません(これ、自分でもやってみたのですが、立てて回すのって結構意識しないとできないもので、無意識にやると誰もが傾けたり倒したりしながら回すだろうなあと思いました)。

傾ける
傾けると当然1回分の薬剤が充填されない可能性があるので、治療不足に陥ってしまうリスクが出てきます。

またシムビコートはステロイドと気管支拡張薬のパウダーが配合された薬剤です。
同じものに前回お書きしたレルベアやアドエアなどがあります。レルベア、アドエアは症状の強さによって、それぞれ強さの異なる剤型が用意されています。
一方シムビコートは1種類しかありません、ではどのように症状の強弱によって調整するのかというと、1回の吸入の回数を増減することによって行っています。

そこでときどき起こる勘違いです。
例えば1回に2吸入してくださいと指示があった場合、正しくは一度円盤を充填してから(クルッ、カチッしてから)吸入するという動作を2回繰り返すのですが、クルッ、カチッを2度続けてから吸入する方がいらっしゃいます。
2度クルッ、カチッとやると、1回目に充填された薬剤はキャンセルされてしまうので、治療不足に陥ってしまいます。

また、タービュヘイラーには上下部に吸気口があります。

吸気口位置
吸ったときにここから外気を取り入れることで空気の流れを作るのですが、吸うときに指で下部吸気口を塞いでしまうとうまく薬が流れません。

吸気口塞ぐ
一方吸うときに唇を浅く加えると、十分な吸気になりませんが、逆に深く加えすぎると、今度は上部にある吸気口を唇で押さえてしまうことがあり、この場合も薬が出なくなってしまいます。

くわえ方


最後に、この器具、振るとシャカシャカ音がします。
これは薬の音ではありません。中に乾燥剤が入っているためです。
ですので薬を使い切って空になってもシャカシャカ音がしますので、これを「薬が残っている」と勘違いしないように気を付けましょう。

この器具は吸入が一見簡単そうに見える器具なのですが、落とし穴も少なからずちりばめられています。不安な場合はぜひ処方医や薬剤師にお聞きください。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.09.11更新

8月26日に、新しい気管支喘息の吸入治療薬である「エナジア」「アテキュラ」が発売されました。
これらは、気管支喘息の治療の基本である「吸入ステロイド」に「吸入気管支拡張薬」が配合されたお薬です。特に「エナジア」は喘息に対する吸入薬としては、3種類の薬剤を1つにまとめた初めてのお薬ということで、今後の治療の幅が拡がる可能性があり注目されています。

これで喘息の吸入治療薬のラインナップは以下の通りとなりましたCOPDのみに使用できる吸入薬はここには掲載していません)。

喘息治療薬一覧
ご覧のように、今は本当に多くの薬剤があります。
吸入による喘息症状の予防治療が本格的に行われるようになってからおよそ20年、当初はスプレータイプのお薬だけでしたが、その後パウダータイプ、ミストタイプのお薬が発売され、その形、方法もどんどん増えてきています。

それはより治療効果を上げるための製薬会社の努力があってのことなのですが、治療選択肢が増えることにより、患者さんにとっては薬の使い方がどんどん複雑になってきているという側面もあります


このブログを読まれている方でも、これらの吸入薬をすでに使われている方が少なからずいらっしゃると思います。
本来であれば、これらの薬の正しい使い方、コツなどは対面でお話しし、実際に器具を使ってみないとなかなか伝わりづらいことです。
しかし、なかなか皆さん全員がアドバイスを受けられる環境にいらっしゃるとも限りませんので、今回から不定期になると思いますが、各吸入薬のいわゆる「落とし穴」を書いてみようかと思います(すべてを書くスペースは到底なさそうなので、代表的な落とし穴を挙げてみたいと思います)。

まず今回は、レルベアやアニュイティという薬剤で使用される「エリプタ」という器具について取り上げます。

この吸入薬はフタを開けると、その動作でパウダーの薬剤が充填されるので、あとは吸うだけという非常にわかりやすい吸入器具です。
症状のよく出る、比較的重い喘息の方に対しては吸入薬を多く使う必要があるのですが、この器具は、多い量の薬でも1日1回1吸入で済ませることができるので、簡便性は群を抜いています。
そのため多くの喘息の方に使われているお薬です。

ただこの吸入薬にも「落とし穴」があります。

元来パウダータイプのお薬は、吸っている感触があまりありません。
ですので、正しい使い方をしないまま使っていると、気づかないで正しく吸えていないということが起こってしまいます。

この薬剤は、先ほども書いたようにフタを開けることで薬剤が充填されますが、これはフタを最後までしっかり開けないと起こりません。中途半端に開ける状態では薬が充填されていません。
この状態で使用しても全く薬が体内に入らないので、意味がなくなってしまいます。
これに気づかないまま時間が経過していると、しっかり薬を使っているのになかなか良くならないという事態がおきることが少なくありません。
(一方、逆に何度もフタを開け閉めしてしまうと、吸入しなかった薬が破棄されてムダになってしまうという落とし穴もあります)。

また、吸入薬はしっかりと気管支の奥まで薬剤を届ける必要があります。そのためにはある程度強い吸入力が必要となります。しかもしっかりと薬を吸いきるにはある程度の長い時間吸い続ける必要があり、さらに吸った薬を気管支の奥まで充満させるために、吸入後に息止めをする必要があります。

しかしこれができていない方が非常に多いのが実情です。

当院にいらっしゃる方で以前からエリプタを使用されていた方に、エリプタを診察室で実際使用していただくと、吸入力が非常に弱かったり、吸入の持続時間が短かったり、息止めができていないケースが少なくありません。
これによって症状が十分に取れないことが多いのです。

エリプタの正しい使い方は「しっかりした強さで」「男性なら3-4秒、女性なら2-3秒、胸がしっかり膨らむまで吸い」「その後5秒間息止めをする」が基本になります。

これらは教わらない限り、正しく行うことはほぼ不可能ですし、一度教わっても時間が経つと徐々にできなくなっていることも少なくありません。

他にもいろいろポイントがありますが、すべての手順を正しく使用するというのはなかなか難しいことです。
せっかくの吸入薬です、安くもない薬剤なので、使用する方には最大限の効果を得てほしいものです。ほかの器具でもそうですが、吸入薬を使用する際はぜひ医師や薬剤師などからしっかりサポートを受けられる環境で使用していただきたいと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

前へ