医師ブログ

2022.12.04更新

ワールドカップ、日本代表の目覚ましい活躍で、患者さんも寝不足の人だらけですね(笑)

私もそりゃ見たいと思っていますが、朝4時に起きて見てしまうと間違いなく臨床能力が落ちてしまいます・・・
応援できる方は、精一杯画面の向こうにパワーを送ってください!

そういえば、数年前、元日本代表の岡崎慎司選手が「アスリート喘息」であることを告白したことが話題になりました。
他にも有名どころではフィギュアスケートの羽生弓弦選手、レスリングの吉田沙保里選手などがこの病気をお持ちのようです。

 

そしてこの時期は、体育や部活,運動などで苦しくなるということで受診される方が増えるのです。

 

そこで今回はこの「アスリート喘息=運動誘発性喘息」にフォーカスを当ててみたいと思います。

喘息はこちらでも書いている通り、気管支が敏感になることで咳が出やすくなり、気管支の壁がむくんだり、炎症の結果痰が多く分泌されるようになるために空気の通り道が狭くなり、ゼーゼー、ヒューヒューいったり、息苦しくなる病気です。

喘息模式図

その喘息が起きるにはいろいろな原因があります(アレルギー、感染症、環境などなど)が、その中でも「運動」が原因となる場合があり、これを「運動誘発性喘息」と呼んでいます。

運動誘発性喘息は気道に乾いた、冷たい空気が多く入ってくることによっておこると言われています(一方、喘息を持たない人が、運動の時だけ同じような症状が起こることがあり、これは「運動誘発性気管支攣縮」とよばれています)。

具体的には、乾いた空気が入ることで気管支表面の細胞から水分が失われ、それが刺激となっていろいろな炎症が起こるのではないかと言われています。
冷たい空気は温かい空気に比べ、含まれる水分量が少なくなるため、より細胞の渇きが強くなっていまい、寒く、乾燥するこの時期に症状が出やすくなってしまいます。

また当然運動量が増えると口呼吸となります。
口呼吸は
、副鼻腔で加温・加湿された空気を取り込める鼻呼吸と比べて、冷たく乾いた空気が入ってきやすくなる上、「鼻毛」というフィルターを通さない分、様々な異物・刺激物を通過させてしまうため、気管支の刺激になってしまいやすいのです。

 鼻呼吸、口呼吸

そしてこの現象は、より冷たく乾いた空気が多く入る、マラソンサイクリング、走る距離の長いサッカースキースケートなどのウインタースポーツで起きやすいと言われています(今回のワールドカップでも鎌田大地選手は初戦のドイツ戦で12km以上走ったそうです。野球部だった私には到底想像できない運動量です・・・)。

一般にはあまり知られていない病気のため、このような状態になっているのに気づかない方もいらっしゃいます。
最近急にパフォーマンスが悪化した、成績が急に落ちたということで、心配された監督やコーチから医療機関を受診されて診断できたケースも少なくありません(他に、特に女性の場合なら貧血なども原因として考えておく必要があります)。

さて、このような運動誘発性喘息が起きた時、一番皆さんが心配されるのは、「私は運動をしてはいけないの?」といったことです。
実際、当院に来院される方のお話しでは、他の医療機関や学校で運動を避けたほうがいいとずっと言われていたため、体育を何年も休んでいたという方もいらっしゃいました。


結論から言うと、運動をあきらめる必要はないのです!あきらめてはいけません!

しっかりと対策をすればほとんどの場合、症状はしっかりとコントロールができるからです。

事実、運動誘発性喘息、つまりアスリート喘息は、一般の方よりアスリートの方に有病率が高いと言われています(より激しい運動で誘発されやすくなるので、当然と言えば当然です)。

しかし、しっかりと対策をしてパフォーマンスを維持できた多くのアスリートが輝かしい実績を残すことが出来ているのです(上記に挙げた3人はいずれも世界トップクラスの実績を残しましたよね)。
「正しい治療」を行った場合、そのパフォーマンスに影響は出ないことがわかっていますImmunol Allergy Clin North Am. 2018 May;38(2):205-214

 

ではどのような治療をすればいいのでしょうか?

 

まず、一番有効性が高いのが、運動をはじめるちょっと前(5~20分前)に、気管支拡張薬の吸入薬(サルタノールとかメプチン)を使用することです。
これは効果がすぐに現れ、2~3時間効果が続くとされています。

また「キプレス」「シングレア」「オノン」などの、ロイコトリエンという炎症性物質の働きを抑える薬も有効性が高いというデータも出ています。

そして喘息についてはしっかりと吸入ステロイド中心とした喘息予防薬を使用しつづけることが大事になります(運動誘発性喘息ではなく単なる気管支攣縮なら必要ありませんが、喘息は診断まで数年の間ずっと見逃されていた例にしばしば出会いますので、喘息がないという判断はかなり慎重に行う必要があります)。

喘息のコントロールが悪いと、当然ながら運動時に症状は明かします。

さらには、薬剤を使用しない方法も試してみたいところです。

例えばウォーミングアップとして、運動強度を10~15分かけて徐々に強めることで、気管支の炎症反応を起こりにくくする効果があるとされ、こちらは結構データがそろっています。Am J Respir Crit Care Med. 2013 May 01;187(9):1016-27

また肥満がある場合はやせることで気管支の炎症が起こりづらくなることもわかっています。Respiration. 2015;89(6):505-12

他にもマスクを着けた運動なども有効性が考えられていますが、そもそもマスクだと強度の高い運動はしづらくなるので、やはりしっかりと薬剤を使用したほうがよさそうです。

レベルの高いアスリートだと、ドーピングなども気にしなければいけないことになりますが、基本的に吸入ステロイドを基本とした長期管理目的の吸入薬は、ほとんどが全く問題なく使用できます(エナジア、アテキュラのみまだ使用できず、特例申請が必要です。レルベア、テリルジーは2020年まで禁止でしたが、2021年から使用可能となっています)。

「発作止め」に当たる吸入気管支拡張薬については、サルタノールは申請なく使用可ですがメプチンは通常使用できず、どうしても使用しなければならない場合、特例申請が必要となります(もちろんメプチン錠、メプチンミニ錠など、メプチンの内服薬も使用できません。そもそも現在の治療で、どうしてもこの薬がないといけない場面は、私はほとんどないと考えていますが・・・)。

内服薬もキプレスなどのロイコトリエン受容体拮抗薬、それに抗ヒスタミン薬(いわゆる花粉症の薬ですね)は申請なく使用できますが、よく巷では使用される「ホクナリンテープ」は通常使用ができないので注意が必要です。

内服のステロイド薬(プレドニン錠、デカドロン錠、リンデロン錠など)はもちろん使用できません。
(なおこの情報は2022年時点のものになりますので、最新情報は都度ご確認ください)。

喘息治療薬とドーピング

 

という訳でなんだか最近運動すると苦しいなと感じられた方、まずはお近くの呼吸器内科(お子様なら小児科)に、お早めにご相談ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信