はじめに
「最近、夜間に咳が止まらない」「風邪の後に咳だけが数週間続いている」といった症状はありませんか?
長引く咳の中で、大きな割合を占めるのが「気管支喘息」です。
気管支喘息は、かつては「命に関わる恐ろしい病気」というイメージが強いものでした。
しかし現在は治療法が確立され、適切にコントロールすれば健康な人と変わらない生活を送ることが可能です。
ただ、長引く咳を気管支喘息と正しく診断し、また正しく治療をすることは、実はそれほど簡単ではありません。
喘息とは?~気道で起きている「火事」~
喘息の本質は、空気の通り道である気管支が慢性的に「炎症」を起こしている状態です。
炎症は「火事」に例えることができます。

喘息の方の気道では、症状がない時でも気道では小さな火種がくすぶり続けています。

風邪をひく、花粉症になる、ホコリを吸う、寒暖差にやられる・・・などが、この火種を大きくしてしまう要因です。
一旦火種が大きくなると、気道の中で炎症という名の「火事」が起きてしまいます。
このようになると、気管支の壁が炎症を起こしむくんでしまい、気管支内の空気の通り道が狭くなります。
また、炎症により気道が敏感になると咳が止まらなくなり、また炎症によって痰も多くなります。
咳やゼーゼー、息苦しさなど、気管支喘息の症状が出現するのです。

ただ、喘息の中には、それほど気管支が狭くならない状態や、痰もあまり増えない状態もあります。
この場合、咳だけがずっと続く、いわゆる「咳喘息」の状態となります。
この状態であっても「火事」は起きているので、やはり正しい対処をすることで「鎮火」することが必要となります。
なんで喘息になるの?
喘息の発症には、外的な要因と遺伝的な要因が、いろいろと複雑に絡み合っています。
具体的には以下のような要因が多いです。
- 吸入アレルゲン: 花粉、ダニやハウスダスト、ペットの毛、カビなど
- 気象の変化: 気圧や気候の変化、寒暖差、冷たい空気の吸入など
- 生活環境: タバコ(受動喫煙含む)、排気ガス、光化学スモッグなど
- 合併症: アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、胃食道逆流症、肥満など
- 遺伝的要因: 親や兄弟、こどもなどが気管支喘息やアレルギーをもっている

どうやって診断するの?
気管支喘息の診断で最も大切なのは、「ほかの病気をしっかり区別すること」です。

咳が長引く病気には、鼻炎、副鼻腔炎による後鼻漏、逆流性食道炎、咳の続きやすい感染症(百日咳や結核、マイコプラズマなど)などなど、多種多様な原因があります。
下でお話しするように、気管支喘息は「火種」から「火事」を起こさせないために、症状が良くなっても継続して治療を行っていくことが、将来のために大事なこととなります。
ですので、治療を続けるための根拠となる「気管支喘息」の確実な診断が、とても大事になります。
当院では、気管支喘息の診断治療に熟練した医師が、しっかりと患者さんのお話しをお伺いし、症状の特徴を把握したうえで以下のラインナップから適切に検査を選び、確実な気管支喘息の診断につなげています(下記は代表的な検査ですが、その他にも必要な他の検査を行うケースもあります)。
| 検査項目 | 目的・わかること |
|---|---|
| 呼気NO測定 | 息を数秒間吐くことで、吐く息に含まれる一酸化窒素(NO)を測定し、気道の「アレルギー性炎症」の程度を数値で把握できます。 |
| 呼吸機能検査(スパイログラム) | 肺活量や息を吐く勢いを測定し、気管支の狭さや、薬でどれだけ改善するか(可逆性)を把握できる検査です。 |
| モストグラフィー | 普段通りの呼吸をするだけで、気道の空気抵抗(空気の通りにくさ)を把握する検査です。 |
| 血液検査 | 好酸球数やIgEという抗体を測ることで、アレルギー体質を見ます。また何に対してアレルギー反応を起こしているのか推定します。 |
| レントゲン検査 | 咳の続く病気は気管支喘息だけではありません。他の病気を確実に見分けるためにまずは行う重要な検査です。 |
| CT検査 | レントゲンは簡便ですが、十分に見分けられないこともあります。他の病気の疑いが残るときはCT検査で確実に見分けていきます。 |
治療で大事なこと、治療薬について
気管支喘息は、症状がなくても「火種」がくすぶりつづけ、引き金によって悪化し「火事」を起こします。
「火事」を何回も起こしていると、気管支の壁は徐々にその形を変え、常にむくんで、炎症が持続的に起きる状態となってしまい、ちょっとした火種でも「大火事」を起こす望ましくない状態となってしまいます。
これを「気道リモデリング」と言いますが、現在の喘息治療の目標は「症状がない状態を維持し、将来的なリモデリングを防ぐこと」になります。
そのためには、吸入薬をはじめとした喘息の治療薬を、適切に、長く使っていく必要があります。
どのような薬があるのか、以下で必要な治療薬を解説していきましょう。

吸入ステロイド
喘息治療に革命をもたらした薬剤で、気管支喘息治療の「主役」です。
この薬剤の登場で、喘息の死者数は登場前の7分の1以下まで減りました。
吸入ステロイドは飲み薬や注射のステロイドとは違い、量が極めて少ないうえに血液中にもほとんど取り込まれないため、全身に起こる副作用はとても少ないことが特徴です。
長時間作用性β2刺激薬
主に吸入薬として使われ、気管支を長期間拡げることで、空気の通りを良くします。
また、吸入ステロイドと同時に吸うことで、ステロイド薬が気管支の奥深くまで届くことをサポートします。
※ 貼り薬や塗り薬として使用されることもあります。
長時間作用性抗コリン薬
こちらも主に吸入薬として使われ、気管支の筋肉を緩めることで気管支を拡げ、また気道から分泌される痰を減らします。
※吸入薬はこれらが複数配合されているものがあり、それぞれの作用が相乗効果を示し、症状の改善を強力にサポートします。
抗アレルギー薬
ロイコトリエン拮抗薬(キプレス、オノンなど)は、気道のアレルギー反応のもととなるロイコトリエンを抑えます。
また抗ヒスタミン薬は、鼻炎などアレルギーの原因となるヒスタミンを抑えることで、気管支喘息の悪化のきっかけを作らないようにします。
その他にも、他の種類の抗アレルギー薬や去痰薬、気管支喘息の型や合併症によっては抗菌薬の少量持続投与など、それでも治まらない場合は内服ステロイド薬を併用することもあります。
難治性喘息への新たな選択肢「生物学的製剤」
従来の治療でコントロールが困難な重症喘息の方には、炎症の元となる物質を直接ブロックする「生物学的製剤」の注射療法も選択可能です。
これらの薬は分子レベルでアプローチする最新の治療で、ブロックする部位によって、数種類の生物学的製剤が使用でき、医師が症状の特徴や検査結果を見ながら、ベストの薬剤を選択していきます。
高価ではありますが、これまでの生活を一変させられる可能性があります。
生物学的製剤の詳細についてはこちらも↓↓
2023.10.29 なかなか治らない喘息の切り札「生物学的製剤」って何だ? 〜まずは喘息の反応についてから〜
2023.11.6 喘息の反応を理解したところで・・・各生物学的製剤について解説!(1)
2023.12.3 喘息の反応を理解したところで・・・各生物学的製剤について解説!(2)
当院の「オーダーメイド治療」
私たちは、単に薬を処方するだけでなく、その「質」にこだわっています。
① 専門医によるきめ細かな調整
喘息の状態は、季節やストレス、感染症など、さまざまな要因で変動します。
当院では呼吸器・アレルギー専門医が、詳細な聞き取りと様々な検査データを基に、お薬を増やすべきか(ステップアップ)、減らせるか(ステップダウン)を的確に判断し、一年を通して安定した状態を作る「オーダーメード治療」を行っています。
② 「吸入指導」は治療の要
吸入薬は、正しく吸えなければ効果はほとんど期待できません。
•デバイスの選択: 吸入薬にはさまざまな「デバイス」があり、それぞれ吸入方法、コツが異なります。
患者さんの吸い込む力や吸い方のクセに合わせて、適切な吸入デバイスを選択することはとても大事です。
当院では、医師が患者さんの特性を見ながら、その患者さんに合った適切な吸入デバイスを選択します。
•使用方法の徹底レクチャー: そして、正しい吸入薬の使い方をしっかりと覚えることが症状改善のスタートです。
当院では医師や看護師が吸入薬の正しい使い方を直接確認・手助けいたします。
また薬局とも連携し、薬局での吸入指導のフィードバックも行っています。
症状が悪化した時の対処
吸入ステロイドなど、しっかり気管支喘息の治療を継続すると、喘息の症状は安定し、悪化の頻度が減ります。
まずはしっかりと普段の治療を続けていただくことが大事ですが、それでも季節、天候の変化や風邪をひいた時、環境が変わった時など、症状が悪化する可能性はどうしてもなくすことはできません。
症状が悪化した際は、速やかに適切な治療を行うことが大事です。
当院では気管支喘息の方には、増悪治療薬(いわゆる「発作止め」)として、「サルタノール」「メプチン吸入薬」などの頓服の吸入薬をお出しします。
正式には「短時間作用型β2刺激吸入薬」といって、狭くなった気管支を素早く拡張させることができる吸入薬です。

よく誤解されやすいのですが、この薬は「強い」吸入ではなく、「効き目が早い」吸入薬で、効き目も数時間で切れます。
「強い」吸入というイメージで、「限界になるまで使わずに我慢したほうがいい」と思われている方が少なくないのですが、限界まで我慢して状態が悪化すると、もはや効果が薄れてしまいます。
症状が悪化する「前」に、「前兆を感じたら」使用する事が大事です(このことも当院の外来でしっかりと説明いたします)。
それでも症状が改善しない場合は?
「発作止め」は何回か使用していいのですが、使用を続けていると手の震え、動悸などが出現することがあります。
また何度も使用しても改善しない時は、次の治療が必要となり、これは当院のような医療機関で実施します。
具体的には気管支拡張薬のネブライザー投与、ステロイド薬点滴やステロイド内服薬の短期投与などです(当院は専用の点滴室を備えており、ネブライザーも同時に受けて頂くことが可能です)。
これらの治療で起きている炎症を「強制終了」します。

また極めて症状が強いときは、より高度な医療処置をしながら入院可能な病院に速やかに転送します。
当院は、平塚市内の各総合病院と綿密な連携が取れていますので、悪化した際も安心して任せて頂けます。
当院おかかりつけの方は、予約が埋まっていても当院の受診が優先的に可能な「かかりつけ臨時受診制度」があるので、いざ症状が悪化した際も、心配なく当院に相談をして頂くことが可能です(かかりつけ臨時受診制度についてはこちら)。
このような場合は遠慮なく当院にご連絡ください!
さいごに
喘息は「がまんして付き合っていく病気」から「コントロールして忘れる病気」へと変わっています。
でも、その状態に至るには、正しい診断と治療、患者さんご自身の正しい喘息へのご理解が不可欠です。
「咳が長引く」「何かあると咳が続いて困る」「階段を上ると息が切れる」などといったサインを見逃さず、ぜひ一度ご相談ください。
私たちは、専門的知識と多種多様な検査で、皆さんの呼吸器症状の改善を全力でサポートいたします。
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