昨日夜にゆっくりとニュースを見ていたら、なんだか私たちの領域の話題が・・・
「長引く咳や痰、それに痰に血が混じることがあれば、お早めに呼吸器内科医にご相談ください」と・・・
画面をよく見ると上の方に「肺NTM症」の文字が。
私たちの間ではもちろんよく遭遇する病気ではあるのですが、普段テレビなどのマスコミではほとんど話題にならない病気でもあり、ずいぶんとナナメな方向から話題を探してきたなあなんて思っていると、
実は厚生労働省が9月24日〜30日を「非結核性抗酸菌症」を啓発する期間として、周知に努めるらしいんです。
私たちの専門ではありますが、ホント申し訳ありません。
今週から啓発週間だってこと、初めて知りました・・・😞
でもせっかく厚生労働省が啓発してくれているので、この機会、私たちも乗っかって是非この病気について皆様に知って頂けたらと思います!
季節の変わり目になると、外来では「咳がなかなか止まらなくて」という方が一気に増えます。
今年から、新しく啓発週間ができたんだって
毎年9月24日〜30日は、もともと「結核予防週間」として知られていた期間です(それはさすがに知ってました)。
そこに今年(令和8年度)から、「非結核性抗酸菌症啓発週間」が新たに加わりました。
日本結核・非結核性抗酸菌症学会が厚生労働省に要望し、国として初めて、この病気の啓発に取り組むことになったんですって。
「ひけっかくせい・・・何?」聞いたことない、ですよね
「非結核性抗酸菌症」、あまり聞いたことがない方も多いかもしれません。
そもそも漢字ばかりだし、覚えにくそうな名前です。
ちなみに今回の啓発週間の標語は、「長引く咳にNTM症という視点を」。
NTMは、非結核性抗酸菌の英語「Non-Tuberculous Mycobacteria」の略です。
長ったらしい名前で覚えてもらいにくそうだったんで、多分略語で啓発しよう!となったのでしょう。
一般の方にはあまり知られていない病気ですが、実は決して珍しい病気ではありません。
国内では2014年ごろに、新しく診断される人の割合(罹患率)が結核を上回りました。Namkoong H, Kurashima A, Morimoto K, et al.: 日本における肺非結核性抗酸菌症の疫学. Emerg Infect Dis 22 : 1116-1117, 2016.
患者数(有病率)は年12〜22%のペースで増え続けていると推定されています。
さらに、60歳以上の女性では、結核よりも非結核性抗酸菌症で亡くなる方の方が多くなっているという研究結果も出ています。
「知られていないのに、増えている」
これが今回、国が啓発に乗り出した理由のようです。
実は「気づいていないだけ」の方が、少なくありません
この病気のやっかいなところは、初期には症状がほとんどないことです。
あっても「ちょっと咳が出るかな」「痰がからむかな」くらい。
そのため、
・健診のレントゲンで「影がある」と言われて、初めて見つかる(ただレントゲンも、比較的わかりにくいところに影が出ることが多いため、スルーされてしまうケースも実は少なくありません)
・別の病気で撮ったCTで、たまたま見つかる
というケースがとても多いんです。
つまり、まだ指摘されていないだけで、すでにこの病気を持っている方は、決して少なくないと考えられます。
「長引く咳」や「健診の影」を、そのままにしていませんか?
非結核性抗酸菌症って、どんな病気?
NTMは「結核の親戚」
「抗酸菌」という名前も、なかなか聞く機会はないかと思います。
「抗酸菌」は、細菌を観察しようと色素で染めたときに、酸でも色が抜けない性質を持つ菌のグループです(通常の菌は酸で脱色します)。
この「抗酸菌」の中に、結核菌がいます。
一方、結核菌でない菌も多くあり、それらをまとめて「非結核性抗酸菌(NTM)」と呼びます。
非結核性抗酸菌は200種類近くもあるのですが、日本では病気を引き起こしているのは、8~9割がMAC(マック:アビウム菌とイントラセルラーレ菌)と呼ばれる菌で占められています(MAC症は聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません)。
「結核」は皆さんご存知でしょうか。
数十年前までは、多くの日本人が「結核」で命を落としていました。
いわゆる「血を吐く」恐ろしい病気として知られていました。
樋口一葉、正岡子規、石川啄木など、若くして亡くなった著名人も少なくないですし、「となりのトトロ」でお母さんがかかって、長く病院に入院をしていた病気も「結核」だと言われています。
そして結核は、人から人にとてもうつりやすいという特徴を持っています。
いわゆる「空気感染」をする病気で、同じ空間にいるだけで簡単に感染が成立する、非常に厄介な病気なのです。
そして、「非結核性抗酸菌」は、そんな結核の親戚なわけです。
ドキッとしますよね。
でも安心してください。
非結核性抗酸菌症は、人から人へはうつりません。
ご家族と一緒に食事をしても大丈夫。
感染予防のための入院や、周りからの隔離は一切必要ありません。
菌は、どこからやってくるの?
では、非結核性抗酸菌はどこにいて、どこから体に入ってくるのでしょうか?
非結核性抗酸菌は、湿ったところが大好きです。
そのため、土や水など、身の回りの環境に多く潜んでいると考えられています。
具体的には
・畑や庭の土
・お風呂場、シャワーヘッド
・水道の蛇口、加湿器
こういった場所に潜んでいるのです。
そして、土の中に潜んでいる菌が土ぼこりとして舞い上がったり、シャワーヘッドに潜んでいた菌が細かい水しぶきと一緒に空気中に漂ったり(エアロゾル)することで、菌を吸い込み、肺に入り込むと考えられています。
つまり誰でも簡単に菌を吸い込んでしまう可能性はあるわけです。
なりやすいのは、どんな人?
でも、菌を吸った方がみんなこの病気を発症するわけではありません。
明確にこれがあると発症する!といった要因があるわけではないのですが、実際に菌が肺に定着をして、増殖して病気となってしまう方には以下のような方が多いと言われています。
・高齢のやせ型の女性の方
やはり加齢によって免疫機能が低下すると、菌を排除しにくくなるのでそのまま菌が肺に居つきやすくなることが考えられます。
またやせ形の方は、菌を防御するホルモンが少なかったり、菌を排除しにくいような遺伝的背景を持っているケースもあるのではという仮説もあります。
女性に多い理由については、水回りにいる機会が長いことや、閉経後のホルモンバランスの変化が要因なのではと推測されていますが、わからないこともまだ多い状態です。
ちなみにこういった方の中でかかってしまう方は、非喫煙者の方も少なくないのが特徴です。
・COPDや気管支拡張症など肺の病気を持っている方
COPD(いわゆる「タバコ肺」)や気管支拡張症になると、肺や気管支が破壊されます。
肺や気管支には異物を追い出す機能が備わっていますが。その機能も当然落ちます。
するとそこに非結核性抗酸菌が入り込む余地が生まれてしまうのです。
・胸郭変形
側弯症や漏斗胸で骨格が歪んでしまうと、肺も均等に空気の出し入れがしにくくなります。
もともと右肺は上葉、中葉、下葉と3つに、左肺は上葉、下葉の2つにわかれ、左肺の上葉はさらに上区、舌区と分けられ、右の中葉、左の舌区は、それぞれ他の肺に囲まれ潰れやすい構造です。
そのためもともと空気の出入りがしづらいのですが、胸郭が変形しているとなおのこと空気の出し入れが難しくなります。
そのため肺の機能としては弱くなりやすく、ここに菌が入り込むと追い出しにくくなってしまうのです。
・免疫抑制状態
リウマチなどで免疫抑制薬を飲んでいる方や、様々な病気でステロイドを長期的に内服、注射している方では、免疫力が低下し続けてしまうので、非結核性抗酸菌が追い出しにくくなってしまいます。
そのためこれらの治療をしている方は、より注意深くレントゲンなどをとる必要があり、はっきりとした影がなくても多少でも症状があればCT検査などでより細かく検査をすることが勧められます。
症状は? 年単位で、ゆっくり進みます
当初はほとんど症状がないことも多いのですが、徐々に進んでくると以下のような症状が出てくるようになります。
・長引く咳
・痰(たん)
・血の混じった痰(血痰)
・微熱、だるさ
・体重が減ってきた
この病気の特徴は、進み方がとてもゆっくりなことです。
8~9割を占める「MAC症」であれば通常は、数か月単位ではなく、5年、10年という年単位で、少しずつ進んでいきます(アブセサスやカンザシなど、より早く進んでしまったり、比較的強く症状が出やすかったりするタイプもあるので、正しい診断がとっても重要です)。
良くなったり悪くなったりを繰り返すこともあります。
「咳はあるけど、もう何年もこんな感じだし・・・」
「年のせいかな」
そうやって受診のタイミングを逃してしまう方が多いのも、この病気の特徴なんです。
どんなときに受診すればいいの?
こんなサインがあれば、ぜひ一度ご相談を
・咳や痰が3週間以上続いている
・痰に血が混じったことがある
・健診のレントゲンで「影がある」「要精密検査」と言われた
・以前、気管支拡張症と言われたことがある
・特に理由がないのに、体重が減ってきた
特に健診で指摘された方。
「症状もないし、まあいいか」とそのままにしてしまったとき、もしそれが非結核性抗酸菌症なら、進んで手遅れになってしまうことがあります。
早期発見をして、しっかりと適切な時期に対策を打っておくことがとても大事な病気なのです。
放っておくと、どうなるの?
ゆっくりとはいえ、病気は確実に進みます。
・気管支が広がって、壊れていく(気管支拡張)
・肺に空洞(穴)ができる
・肺が縮んで、硬くなっていく
そして進行すると、
大量の血を吐く「喀血(かっけつ)」や、
酸素が足りなくなる「呼吸不全」を起こし、
在宅酸素が必要になったり、命に関わったりすることもあります。
そして大事なのが、一度壊れてしまった肺は、元には戻らないということ。
だからこそ、肺が壊れる前に見つけることが大事なんです。
検査と治療、そして「いつ始めるか」
どんな検査をするの?
①胸部レントゲン・CT
まずは画像で肺の状態を確認します。
非結核性抗酸菌症の影は、初期には淡くて小さいことが多いです。
実はレントゲンは中葉、舌区というこの病気が起きやすい部分は、見にくいことが少なくありません。
レントゲンを撮っても専門医の読影でなければ見逃されてしまう例を多く見ています。
まずはしっかりとしたレントゲン読影ができるところで検査を。
そして、多少でも怪しい影があればCTへ。
小さな影や気管支の変化をしっかり捉えるには、CTが力を発揮します。
②痰の検査(喀痰培養)
痰の中に菌がいるかを調べます。
環境中にいる菌なので、1回出ただけでは「たまたま混じっただけ」の可能性もあります。
そのため2回以上、同じ菌が出ることが診断の基準になります。
また抗酸菌は試験管の中で育つのが極端に遅い菌です。
結果が出るまで最大6週間かかるので、何度も繰り返して痰を採取するなど、根気強く検査をしていく必要があります。
痰がどうしても出ない場合は、気管支鏡で肺の奥の分泌物を採ることもあります。
③血液検査(抗MAC抗体)
MAC菌に対する抗体を血液で調べる検査です。
痰が出にくい方でも受けやすく、診断の手がかりとしてとても役立ちます。
ただし陰性でも完全には否定できないので、画像や痰の検査と組み合わせて判断します。
なお、当院では、
・レントゲン、抗MAC抗体、喀痰検査は茅ヶ崎院・平塚院の両院で積極的に行っています。
・平塚院ではCT検査を積極的に行い、見逃さずに発見できる機会を増やしています。
・茅ヶ崎院でも、撮影したレントゲンは呼吸器専門医が読影します。
細かな異常を見つけたら、速やかに平塚院などでCTをお撮りして、早期診断につなげています。
治療も、根気強く
さて、次は治療についてです。
一番多いMAC症の場合、基本は3種類の飲み薬を組み合わせて治療します。
・マクロライド系抗菌薬(基本的にはクラリスロマイシン)
・エタンブトール
・リファンピシン
治療期間は、痰から菌が出なくなってから、さらに少なくとも1年以上。
トータルで1年半〜2年くらいかかることが多いです。
長いですよね・・・(処方している私も、患者さんの大変さはよくわかります)
空洞がある場合などは注射薬を加えたり、飲み薬で菌が消えない場合にはアミカシンという抗菌薬の吸入薬(アリケイス)という治療を行うこともあります(この吸入療法は薬がなかなか効かない方でもかなりの効果を示すことがありますが、なんといってもまだ非常に高額な治療であることが難点です)
上のお薬を最低1年強、長い場合は数年にわたって内服するので、その副作用のチェックも大事です。
主には
・エタンブトール:視力低下や、色の見え方の変化
・リファンピシン:肝機能障害(尿や涙がオレンジ色になることもありますが、これは心配いりません)
のような症状が出うるため、定期的に血液検査や目の検査をしながら進めます。
そして一つ、とても大事なことです。
マクロライド系の薬を1種類だけで飲み続けるのは絶対にNGです。
菌がすぐに薬への耐性をつけてしまい、一番の武器が効かなくなってしまいます。
これは「風邪」で安易に抗生物質を飲むべきではない理由にもなります。
ましてや、以前もらった抗生物質を飲み切らず、「前にもらった薬が余っているから」と次の風邪のときに飲むなんてことをしていると、もしこの病気だった場合は目も当てられません・・・
自己判断で抗生物質を飲むことは、絶対にやめてくださいね。
「すぐ治療」か「経過観察」か。その分かれ目は?
ここ、患者さんから一番よく聞かれるところです。
実は非結核性抗酸菌症は、診断されたら必ずすぐ治療、というわけではありません。
治療が1年以上と長く、副作用もあるため、治療のメリットとデメリットを天秤にかけて決めていきます。
当院で重視しているのは、「年齢」と「重症度」の2つです。
比較的お若い方の場合
この先、この病気と付き合っていく期間が長くなります。
今は軽症でも、10年、20年かけて進んでいく可能性があります。
そのため、病変が比較的少なくても、早めの治療をおすすめすることがあります。
ご高齢の方の場合
病気がゆっくり進むことと、今後の人生の長さを比べて考えます。
病気の進み方によっては、定期的にCTや痰の検査をしながら経過観察をすることも十分にあり得ます。
その結果「治療しない」方がメリットが大きいと判断すれば、治療しないとする選択肢も十分あり得ます。
一方、「症状の進行を見守りながら、必要なタイミングで治療を始める」という選択も、もちろん検討はし続けます。
また年齢に関係なく、
・肺に空洞がある(空洞の中にはおびただしい数の菌がいます)
・痰の中に菌がたくさんいる
・血痰や体重減少など、症状が強い
・画像で明らかに進行している
といった場合は、治療を始めることを積極的に考えていきます。
一人ひとり、ベストな答えは違います。
だからこそ、まずは専門医が正確に診断して、今の状態を正確に把握することが何より大切なんです。
ふだんの生活で、気をつけたいこと
治療が終わった後も、再発や、別の菌に再び感染することが少なくないのがこの病気です。
完全に菌を避けることはできませんが、吸い込む量を減らす工夫はできます。
・シャワーヘッドはこまめに掃除、または交換する(取り外しが難しい場合はシャワーヘッドを次亜塩素酸ナトリウムなどで浸け置きするのも有効です)
・お風呂場の換気をしっかりする
・ガーデニングや土いじりのときはマスクをつける
・加湿器の水は毎日取り替える
などの対策はしっかりとっていきましょう。
まとめ
非結核性抗酸菌症は、知られていないだけで、実は身近で、しかも増えている病気です。
ゆっくり進むからこそ、肺が元気なうちに見つけておくことが、これから先の毎日を守ることにつながります。
早期発見が、将来のあなたの肺を守ります。
長引く咳で心配な方、健診で影を指摘された方、そして他にも気になっていることがある方は、この啓発週間をきっかけに、ぜひお気軽に当院にご相談ください!



