一般内科
脂質異常症
コレステロール、中性脂肪の多すぎは
知らぬうちに血管を壊します。
気づいたら早めの対策を!
脂質って何?
人間が取る3大栄養素は、糖質、タンパク質、そして脂質です。
脂質は体を構成するのに不可欠な栄養素です。
脂質を摂ると、その脂質は血液の中に取り込まれ、「血中脂質」となります。
一方、肝臓からも脂質が作られて「血中脂質」となり、血液中に送られるルートもあります。
「血中脂質」は大きく「中性脂肪」と「コレステロール」とに分かれます。
「中性脂肪」は皮下脂肪の原料となり、エネルギーの源となったり、体温を維持したり、衝撃を吸収したりする役割に加え、脂溶性ビタミンや必須脂肪酸の吸収を助けることにも役立ち、一方「コレステロール」は体の中にある細胞の膜や、食物の消化を助ける胆汁酸、そして生命を維持するのに欠かせない副腎皮質ホルモンなどの原材料となります。
このように脂質は人間にとって不可欠な栄養素なのです。
高コレステロール血症って何?
しかし、何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」、です。
コレステロールが多すぎてしまうと、血管の中から壁の表面をすり抜けて、壁の中に入っていきます。
そこでは「マクロファージ」という異物を食べる体の警備隊がいて、入り込んだコレステロールを食べて排除します。
コレステロールを食べたマクロファージは死んでしまい、血管の壁の中に沈着し「プラーク」と呼ばれるかたまりを作り、動脈は固く、厚くなっていきます。
これが動脈硬化です。
その後、何かの原因でプラークが壊れると、血液の中から血栓を作ってその穴を塞ごうとします。
この血栓がプラークからはがれて、頭の血管に詰まると「脳梗塞」、心臓の周りの血管に詰まると「心筋梗塞」というように、血管が詰まる病気になってしまいます。
そもそも「善玉コレステロール」とか「悪玉コレステロール」とかって何?
「水と油」という言葉は皆さんご存知ですよね?
「決して交じり合わないくらい」仲が悪いという意味です。
この言葉に表される通り、油はそのまま水には溶けません。
コレステロール、中性脂肪も油ですので、そのままでは血液の中に溶けることはできないのです。
そこでカラダは工夫をします。
血液の中では、コレステロール、中性脂肪を「水に溶けるカプセル」に包んで運ぶのです。
この「カプセル」を「リポタンパク」と言います。
「リポタンパク」は、そのカプセルの外側を水になじむ物質で包み、中に油であるコレステロール、中性脂肪を入れて、全身へ運ぶ役割をしているのです。
そして、そのリポタンパクにはいくつか種類があり、主なものとして「カイロミクロン」「VLDL」「LDL」「HDL」といった種類があり、リポタンパクはその過程において、自らの姿を変えて、効率よく全身に血中脂質を配っていくのです。
さて、それぞれのリポタンパクがどのように仕事をしているのかを紹介しましょう。
まずは「カイロミクロン」は腸で作られ、食べて腸にやってきた中性脂肪を乗っけて、血中に送り届けられ、そこから全身に中性脂肪を配りまわります。
中性脂肪を配り終えた「カイロミクロン」は「カイロミクロンレムナント」という残骸となり、残った中性脂肪とともに肝臓に回収され、そこで「VLDL」というリポタンパクに作り替えられます。
「VLDL」は、中性脂肪、コレステロールを載せて血液中へ流れ始めますが、この時点では中性脂肪が多い状態です。
なので「VLDL」からは、まずは中性脂肪が筋肉や脂肪組織で降ろされ、エネルギーとして使われます。
中性脂肪が降ろされ、コレステロールが残されました。そしてそれを載せる入れ物は「LDL」という名前のリポタンパクに変わりました。
そして「LDL」はさらに血中を流れていき、今度は末梢の組織でコレステロールを降ろしていきます。
降ろされたコレステロールは、体の様々な部分の材料として使われていくのです。
コレステロールを配り終えた時点で「LDL」は役目を終えるので、「LDL」は肝臓に回収されていきますが、「LDL」が多すぎると肝臓で回収しきれず、血中に残り血管の壁に入り込んで、先ほどお話ししたプラークを作ってしまうのです。
さて、今度は「HDL」という名前のリポタンパクが新たに肝臓や腸で作られます。
この「HDL」は、いままでのリポタンパクとは逆の働きをします。
他のリポタンパクが中性脂肪やコレステロールを全身に配っていくのに対し、「HDL」は逆に、体の中の余ったコレステロールを回収し、肝臓に持って帰ってくるという仕事をしているのです。
つまり「HDL」は、むしろ体の中の余計なコレステロールを減らす役割があり、そのような観点からは「体にとっていい」ものとなるのです。
一方、体にコレステロールを配り届ける「LDL」は、多すぎると体の害になります(もちろん適正量であれば体にとって必要なリポタンパクです)。
そのため、一般的には、「LDL」に載ったコレステロールが「悪玉コレステロール」、「HDL」に載ったコレステロールを「善玉コレステロール」と表現されるのです。
高中性脂肪(トリグリセリド)血症って何?
中性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪の原料です。
先ほどもお話したように、エネルギー源や緩衝材となるこれらは、体にとって必要なものでもあります。
ただ、やはり多すぎると問題となり、まずは肥満につながってしまいます。
肥満は血糖を上げたり、血圧を上げたりすることで動脈硬化を促してしまいます。
それだけでなく、皮下脂肪、内臓脂肪がたまると体のホルモンのバランスが崩れ、中性脂肪の分解がうまくいかなくなってしまいます。
すると、うまく分解されなかった中性脂肪が「レムナント」という「ゴミ」としてとどまってしまうのですが、このゴミはコレステロールよりもさらに血管壁に入り込みやすく、コレステロール以上にプラークを作ってしまいやすく、さらに動脈硬化を進めてしまう結果となるのです。
コレステロール、中性脂肪が高いって言われたらどうすればいい?(生活習慣編)
血液中のコレステロールや中性脂肪が多くなっても、血管が詰まらない限り通常は症状は何も出てきません(あまりに中性脂肪が高いと膵炎を起こすことはありえます)。
しかしだからこそ、知らないうちに動脈硬化が進んでしまい、取り返しのつかない事態を引き起こすリスクが高くなってしまいます。
そうなる前に、しっかりと血液中のコレステロール、中性脂肪を減らす必要があります。
まずは食事面で、カロリーをコントロールしつつ、適度な運動で体重コントロールをします。
また、質の悪い脂を控えることが重要です。
質の悪い脂とは、「トランス脂肪酸」や「飽和脂肪酸」と呼ばれるもので、脂身の多い肉、加工品、揚げ物、菓子類、調味料などに多く含まれます。
一方、「質のいい脂」は、むしろ血管の病気のリスクを減らすことがわかっています。
「不飽和脂肪酸」と呼ばれるもので、魚の脂やオリーブオイル、アマニ油、エゴマ油などに多く含まれるので、これらの摂取を心がけるようにします(もちろんカロリーオーバーには注意です)
食物繊維は腸の中のコレステロールにくっつき、そのままもろとも排出させてしまうことができ、結果的にコレステロールが吸収されにくくするようにすることができます。
豆類、野菜類、きのこや海藻などを積極的にとることは血中コレステロールを減らすことに役立ちます。
お酒は特に中性脂肪の高い方は気を付ける必要があります。
アルコールは大量に摂取すると、肝臓で中性脂肪が作られやすくなってしまい、血中の中性脂肪が増えてしまい、また肝臓そのものにも脂肪がたまって脂肪肝になってしまいます。
またアルコール量が増えるとどうしてもおつまみの量も増えてしまいます。
その結果、飲みすぎは中性脂肪を増やしてしまうことにつながるのです。
1日に飲めるアルコールの適正量は男性で20g、女性で10gとされています。(アルコール濃度5%のビールだと、350ml缶で350×0.05=17.5となり、男性でもギリギリ、女性だとオーバーになってしまう量です)
また週2回はアルコールを飲まない「休肝日」を作ります。
最後に禁煙です。
喫煙はLDLコレステロールが血管壁に入り込みやすくなったり、「善玉」であるHDLコレステロールを減らしたりします。
節煙はあまり意味がないというデータもありますので、きっぱりと禁煙をすることが大事になります。
コレステロールが高いと言われたらどうすればいい?(薬物治療編)
まずは、何か別の原因でコレステロールが上がっていないかを見極める必要があります。
甲状腺機能低下症やネフローゼ症候群、糖尿病、クッシング症候群、他の薬剤の副作用などでコレステロールが上がることがあり、これらが疑われる場合はまず調べます。
また遺伝的にコレステロールが高いことがあり、この場合は治療をしないと動脈硬化のリスクが上がることがわかっています。
これらの場合は速やかに薬による治療を開始します。
特にそのようなものがない時は、先ほどお話しした「LDL、つまり悪玉コレステロール」と「HDL、つまり善玉コレステロール」のバランスを見る必要があります。
「LDLコレステロール」が高い場合、それを下げる必要がありますし、「HDLコレステロール」が低すぎる場合も対策をとる必要があります。
生活習慣で十分にLDLコレステロールが下がらないときは、「スタチン」と呼ばれる薬を呼ばれる薬が一番効果が高いです。
スタチンは「ストロングスタチン」という効果が高いスタチンと、「スタンダードスタチン」という効果が中くらいのスタチンがあり、程度によって使い分けています。
まれに「横紋筋融解症」という副作用を起こすことはありますが、採血検査を定期的に行ったり、筋肉痛が出現したときに速やかに対応すれば大事に至ることはほぼありません。
あとは小腸でコレステロールの吸収を阻害する「エゼチミブ(商品名ゼチーア)」という薬があり、スタチンほどではないですが効果があります。
「スタチン薬」との併用や、副作用で「スタチン薬」が使えない方に使用します。
目標とする値は、その方の持っている要素(年齢、性別、合併症、喫煙の有無など)で変わってきます。どれくらいを目標にするかは主治医と相談しながら決めていきましょう。
また今までに狭心症や心筋梗塞、脳梗塞になったことのある方や、先ほどお話しした遺伝性の病態の方などは、より厳格な目標が必要となります。こちらも主治医の先生と相談しながら決めていきましょう。
中性脂肪が高いと言われたらどうしたらいい?(薬物治療編)
中性脂肪もコレステロールと同様、まずは別の疾患のせいで上がっていないかを見極めます。
糖尿病やクッシング症候群、他の薬剤の副作用が代表的です。
また遺伝性も大事になり、特に「原発性高カイロミクロン血症」という状態では、通常の10倍以上の中性脂肪値になり、血液の色にも乳白色が混ざるのがわかることがあります。
極端な中性脂肪値の上昇は膵炎のリスクが高まるとされ、すぐに治療が必要です。
中性脂肪は、コレステロールに比べると、生活習慣の改善や飲酒の中止などで大幅に改善しやすいこともあり、まずは上記に挙げた生活習慣の改善を行いますが、それでも改善しないときには薬物治療を行います。
まず第一に考えるのが「フィブラート系薬」と呼ばれるものになります。
肝臓で中性脂肪の合成を邪魔して、また中性脂肪の分解を促すこともできるお薬です。
コレステロールのところで出てきた「スタチン系薬」と同じく、横紋筋融解症に気を付けて使用していきいます。
他には魚の脂が原料となっている「EPA製剤」があり、こちらも中性脂肪の生成抑制、分解促進に働きます。
作用は弱いながらも安全性が高く、また血栓を作りにくくする作用も持ち合わせているので、併用して使うことが多いお薬です。
他にもいくつかの種類の薬があり、患者さんの状態によって追加することがあります。
どのように管理していくの?
まずは治療をする上での目標を定めていきます。
コレステロールについて、目標とする値は、その方の持っている要素(年齢、性別、合併症、喫煙の有無など)で変わってきます。
どれくらいを目標にするかは主治医と相談しながら決めていきましょう。
また今までに狭心症や心筋梗塞、脳梗塞になったことのある方や、先ほどお話しした遺伝性の病態の方などは、より厳格な目標が必要となります。こちらも主治医の先生と相談しながら決めていきましょう。
中性脂肪については、もともと空腹時に150mg/dl以下にすることを目標としていましたが、最近になり空腹時が低くても食後におもいっきり中性脂肪が上がるタイプの場合、血管の病気のリスクが上昇することがわかりました。
そのため、食後の中性脂肪が175mg/dl以下になるようにすることも、もう一つの目標になります。
また、繰り返しにはなりますが、これらは「動脈硬化」を引き起こすことが問題です。
ですので実際に「動脈硬化」が起こっているか、「動脈硬化」が進展していないかを見ることが大事になります。
頸動脈のエコー検査は、頸動脈に動脈硬化、プラークがあるかが直接確認できる検査ですので、脂質を治療する方は定期的に行うことが勧められます。
また、手足の血圧を測ることで測定できる「CAVI」という検査は、全身の動脈の硬さの指標となるので、こちらの検査も定期的に受けたほうがいいでしょう。
また脂質異常症の方は、肝臓や膵臓にも脂肪が沈着しやすくなります。
特に中性脂肪が高い場合は、脂肪肝をきたすリスクが高くなり、更なる動脈硬化の悪化や、肝硬変への進展を引き起こすリスクが高まります。
定期的な腹部超音波検査を受けて頂くことをお勧めします。